最もよく行われる治療はお薬を用いた『投薬』です。
さまざまな薬剤を病態や症状に合わせて使い分けています。
※お薬は必ず主治医の指示に従って使用してください。また、服用により気になる症状があらわれた場合には、医師または薬剤師にご相談ください。
腰痛の原因は様々です。
体を動かすときにだけ痛いのならば大きな心配は要りません。ですが3ヶ月以上続いたり、足の痺れがあると話が変わってきます。
基本はまず整形外科を受診し、命にかかわる病気がないことを確認して下さい。
病院ではレントゲンやMRIなどの画像検査を行い、画像に映る痛みの原因があればまず痛みと炎症を和らげるために薬と注射で治療を進めてくれます。
はっきりしない場合は、心理・社会的要因(メンタルの問題)や神経障害性疼痛(神経の異常による痛み)の可能性も考慮し、治療法を選択してくれます。
また状況によっては、理学療法(リハビリ)や手術なども選択肢に入ります。
とはいえ先に説明したように腰痛の約85%は原因不明ですから、腰痛治療の基本は手術以外の保存療法です。
ここでは保存療法である「薬物療法」「理学療法」「認知行動療法・リエゾン療法」について、治療方法を解説した上でその利点と問題点を解説します。
『薬物療法』はかなりの長文になってしまいました(汗)
興味のない方は飛ばして下さい。
最もよく行われる治療はお薬を用いた『投薬』です。
さまざまな薬剤を病態や症状に合わせて使い分けています。
※お薬は必ず主治医の指示に従って使用してください。また、服用により気になる症状があらわれた場合には、医師または薬剤師にご相談ください。
NSAIDs
代表的な商品名:「ロキソニン」「イブ」「ボルタレン」「セレコックス」など
NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性消炎鎮痛薬)とは、ステロイド以外の炎症を抑える作用、痛み止め作用、解熱作用を持つお薬の総称で、いわゆる「痛み止め」の事をいいます。
痛みの原因である発痛物質「プロスタグランジン」の生成を抑えることで痛みを鎮めます。
市販薬にもよく使われているので聞いたことがある名前もあるのではないでしょうか。
アセトアミノフェン
代表的な商品名:「カロナール」
副作用が少なく、安全性の高い解熱鎮痛薬です。
先のNSAIDsが炎症の起きている場所に作用するのに対して、アセトアミノフェンは脳など「中枢神経系」に作用すると考えられています。
そのため炎症を抑える作用はほとんどありませんが(そのためぎっくり腰など急性期には使わない)、穏やかに痛みを抑える働きがあります。
非ステロイド系抗炎症薬との併用も可能で、炎症のない腰痛に対しては最初に選ばれることが多いお薬です。
神経障害性疼痛治療薬
代表的な商品名:「リリカ」「タリージェ」
神経障害性疼痛治療薬とは神経の痛みの治療に使われるお薬です。
神経の痛みは、痛みを伝える物質「神経伝達物質」が出過ぎることによって生じると考えられています。
神経障害性疼痛治療薬は、この神経伝達物質を抑える事で痛みをやわらげます。
抗うつ薬(三環系抗うつ薬・SNRI)
代表的な商品名:「トリプタノール」「サインバルタ」など。
本来はうつ病のお薬ですが、長引く腰痛にも使用される場合があります。
人が元々持つ痛みを抑制するシステム「下行性疼痛抑制系」の働きを活性化し、鎮痛効果を発揮します。
※日本では一部の薬剤を除き、疼痛には保険適用は認められておりません。
オピオイド
代表的な商品名:「トラマール」「トラムセット」「ノルスパンテープ」など
強い鎮痛作用がある医療用の麻薬で、「オピオイド」とはケシの実からとったアヘンを意味します。
麻薬性鎮痛剤といっても、適切に使用すれば、依存症に陥る心配はありません。
脊髄と脳に存在するオピオイド受容体に結合し、脊髄から脳への痛みの伝達をブロックします。
強い腰痛に用いる薬で、鎮痛効果が高い反面、便秘や吐き気などの副作用が起こりやすい傾向があります。
鎮痛補助薬
本来は痛みの治療用に開発された薬剤ではありませんが、痛みの治療に用いられるお薬の総称です。
痛み止めの補助として黒子的な役割です。
神経障害性疼痛などの慢性痛や激痛の場合、NSAIDsではほとんど効果がないことがあります。そういった場合に鎮痛補助薬が使用されます。
※日本では、一部の薬剤を除き、疼痛に保険適用は認められていません。
『抗てんかん薬』
代表的な商品名:「ガバペン」など
神経の過剰な興奮を抑制し、鎮痛効果を示します。
『血管拡張薬』
代表的な商品名:「オパルモン」「プロレナール」など
痛みによって悪くなった血流を改善することで、痛みをやわらげる効果があるとされています。
『筋緊張弛緩薬』
代表的な商品名:「ミオナール」「リンラキサー」など
痛みに伴って筋肉の緊張がある場合に有効とされています。
緊張が解れると血流が改善し痛みが和らぎます。
『抗不整脈薬』
神経の興奮を抑制することで、痛みをやわらげる効果があるとされています。
その他の治療薬
『ステロイド』
代表的な商品名:「プレドニゾロン」
ステロイドは強力な抗炎症作用、免疫抑制作用を有するお薬で、腰痛には注射での投薬になります。
肌荒れ・アトピーなどにも使われるので持っている方も多いでしょう。
副作用も多く、骨が脆くなったり感染症にかかりやすくなるので注意が必要です。
腰痛の程度が強い場合は、神経ブロック療法が行われる場合があります。
神経ブロックとは、局所麻酔薬などを注射して痛みを伝える神経を遮断「ブロック」する方法です。
痛みが緩和されると緊張していた自律神経が休めるので、血流が改善し筋肉のこわばりも少なくなります。
一回で痛みが完治するものではなく、その他の薬物療法と併せて複数回実施します。
痛み等の症状や原因と考えられる部位により数種類を使い分け、主にペインクリニックで行われています。
多くの痛み止めのように、胃腸や肝臓・腎臓に負担をかけることがほとんどないのがメリットでしょう。
ただし、神経の周辺に注射するため、神経そのものを傷つけたり、出血・感染を起こしたりするリスクがあります。
ここでは腰痛に対してよく使われるブロック注射のみ紹介します。
仙骨(硬膜外)ブロック
尾てい骨の少し上にある「仙骨のすき間」から腰の神経の周りに局所麻酔薬を注射します。
他の神経ブロックと比べて技術的に容易で安全性が高いことから、ペインクリニックだけでなく整形外科でも行われることが多い神経ブロックです。
硬膜外ブロック
硬膜外ブロックは、背骨の下の方(腰のあたり)に局所麻酔薬を注射し、脊髄を覆う「硬膜」の外側にある「硬膜外腔」というスペースに麻酔薬を注入して、神経の興奮を抑えて痛みをとる方法です。
画像引用:だて整形外科リハビリテーションクリニック様
仙腸関節ブロック
仙腸関節ブロックは「仙腸関節痛」に特化した注射です。
仙腸関節は、骨盤を構成する仙骨と腸骨の間にある関節で、靭帯により強固につながっていますが、ほんの数mm動きます。
日常生活での繰り返しの負荷、座りっぱなしの生活習慣、事故の衝撃といった外力によって、関節に微小な不適合が生じ正常な動きができなくなると痛みが発生します。
ブロック注射によって痛みが軽減されることで、仙腸関節の適合が良くなり症状の回復が見込めます。
神経根ブロック
神経根ブロックとは背骨の神経の根元「神経根」に麻酔薬を注射し、痛みを和らげる注射です。
体の深い場所に打つため、レントゲンで体の内部を透かしながら注射する必要があります。
他の神経ブロックに比べて注射自体の痛みが強い反面、痛みの元になっている神経に直接注射をするので、他の神経ブロックが効かない方にも効果が期待できます。
レントゲン透視下設備を導入した施設でしか行うことができない神経ブロックです。
トリガーポイント注射
「トリガー」は「引き金」、「ポイント」は「点」という意味です。
筋肉が原因の痛みの場合、押すと強い痛みを感じ、患者様の訴えと同じ部分に痛みや痺れを引き起こす“引き金”となる場所があります。
※押すと痛いだけでは「トリガーポイント」ではありません。確実に探し出す触診力が必要です。
筋肉に直接、局所麻酔薬や鎮痛薬などを注射し、痛みをとります。
お薬には沢山の種類があるものの、その作用は結局のところ「痛み止め」でしかないことがお解りいただけたのではないでしょうか。
神経の興奮を抑えたり、局所の血流を改善したり、炎症を抑えたりといった効果もありますが、「そもそもどうして壊れるほど局所に物理的なストレスがかかるのか」が解決することはありません。
病院でこれを解決する専門家は医師ではなく理学療法士(リハビリの専門家)です。
では次に理学療法を見ていきましょう。
腰の痛みに対して行われる理学療法には、大きく分けて運動療法と物理療法があります。
それぞれの特徴をご紹介します。
リハビリテーション(rehabilitation)の語源はラテン語で「re=再び」「habilitation=能力を持たせる」という意味があり、日本語では一般的に「機能回復訓練」や「社会復帰訓練」と訳されます。
理学療法とは、身体機能が低下した患者に対して、運動、温熱や水、光などの物理的な刺激を加えることで運動機能の回復を図るリハビリテーションです。
痛みによって硬く緊張している筋肉をほぐし、血流を改善して、痛みを緩和していきます。
その時の症状や運動機能に応じて、有酸素運動や筋力トレーニング、ストレッチ、可動域訓練などを行います。腰痛に対しては「マッケンジー法」や「腰痛体操」が有名で、専門的に行う有名な整形外科も存在します。
運動療法の目的として、痛みにより硬く緊張した筋肉をほぐして血流を促すこと、緊張や痛みで小さくなった関節可動域を広げること、低下した筋力を向上させて運動機能を回復させることなどが挙げられます。
一般的な腰痛や腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などによる痛みには効果が期待できるでしょう。
ただし、過度の運動は痛みの悪化や新たな障害を引き起こす場合があります。
自己流では行わず、医師・理学療法士などの専門家のもと慎重に行ってください。
物理的な刺激によって痛みの緩和や機能の回復を目指します。
物理療法には次のようなものがあります。
寒冷療法
アイスパックや氷嚢、極低温空気などで患部を冷やします。
急性期の炎症による痛みに適しています。
温熱療法
ホットパックやパラフィン浴、赤外線治療器などを用いて患部を温め、血流を改善させます。
慢性の痛みに適しています。
水治療法
水圧や浮力、水の抵抗などを利用して、機能の回復を図る方法です。
水の中では体重の負荷がかからないので、高齢者や肥満者でも無理なく体を動かせます。
牽引療法
腰を引っ張ることで、神経への圧迫を軽減し周辺の筋肉の緊張を和らげて、痛みを軽減します。
脊柱周辺の神経の圧迫による腰痛に効果的だと言われています。
マッサージ
物理療法に含まれることに違和感を感じるかもしれませんね。手技療法として別枠にすることもありますが、ここでは古典的な分類に準じます。
マッサージで血行が促進されると、筋肉の緊張がほぐれるので痛みの緩和につながります。
また、触覚の刺激により、痛みの伝達を抑制する効果も期待できるでしょう。
理学療法は医師の指示・監督のもとで病院内でしか行なえないルールです。
そのため、実際の効果はリハビリを実践する理学療法士の腕ではなく、医師の見立てに依存する傾向にあります。
まず運動療法に関しては、医師は「腰の構造の専門家」(要は壊れているか否か)ではありますが、医学部では習わないため「腰の機能の専門家」ではありません。
時間の都合もあり画像診断だけで終わることも多く、触診もおざなりに、理学検査といった「機能がどうなっているか調べる検査」すら行わないことが多くあります。
これで的確な運動療法の指示ができるのか正直疑問です。
また物理療法に関しては、保険診療という縛りが有るので「保険が効いて点数が稼げる機械」を優先使用する傾向にあります。効果はどうあれ保険で認められている機械しか置いていないところもあります。
腰の牽引や電気治療はその最たるもので、あれを月に数回行って治療上なんの意味があるのか解りません。効果が無くても漫然と続ける院もあるようです。
このような問題は、海外のように理学療法士の開業権を認め、ある程度の自由裁量でリハビリができるようにすれば解決しそうですが、日本では色々と難しいでしょう。
認知行動療法とは、痛みについての誤った認識を修正する「認知療法」と、痛みと行動の関係を知り、日常生活でできることを増やしていく「行動療法」を組み合わせた治療法です。
「認知療法」と「行動療法」にはさまざまな方法がありますが、ここでは一例を紹介します。
またリエゾン療法とは、整形外科や心療内科・精神科など、複数の医師が連携(リエゾン)して治療にあたり、心と体の両面から治療を行う方法で、薬物療法や運動療法と認知行動療法などを併せて行います。
一例として行動日記があります。
腰痛によるマイナス面ではなく、「友人と食事中は痛みを忘れていた」「15分運転ができた」など、認識できなかったプラス面に注目します。
「痛みのせいで何も出来なくなった」という認識を、「痛みがあっても出来ることはたくさんある」という方向に変えていきます。
ストレッチやウォーキングなど現在行える運動から始め、少しずつ活動量を上げていきます。
行動と痛みの関係を調べて、行動の種類や量が必ずしも痛みを悪化させるわけではないことを理解し、痛みの軽減や活動量の増加へとつなげていきます。
ここ数年で出てきた新しい概念なので、そもそも行っているところが極端に少なく、医師の認知は高くないようです。リエゾン療法に関しては仙台市内で見つけることができませんでした。
今後どの様に発展していくのか注目していきたいところです。
ここまでで主な保存療法である、「薬物療法」(投薬・神経ブロック療法)、「理学療法」(運動療法・物理療法)、「認知行動療法・リエゾン療法」について利点と問題点を解説してきました。
痛みという症状に対しては、ここまでの内容でも対処できるはずです。
それでも改善が見られず痛みが3ヶ月以上続く場合には、すでに慢性化しているので保険診療では対応できません。
もしこれを読んでいるあなたが症状の根本改善を願っているなら、ぜひ当院までお問い合わせ下さい。
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[文責]院長 柔道整復師 佐藤幸博
[最終更新日]2022/4/11